
テレビを見ているとき、お子様の口が開いていませんか
テレビに夢中なとき、眠っているとき。お子様の唇がぽかんと開いたまま——そんな様子が気になっている保護者の方は少なくありません。前歯の生え変わりと重なる時期だけに、歯並びへの影響が心配になりますよね。この記事では、口呼吸が歯並びや顎の発育に関わると考えられている仕組み、家庭で気づけるサイン、今日から試せるトレーニング、そして歯科医院へ相談する目安までを順に整理しました。成長期だからこそできる関わり方を、一緒に見ていきましょう。
この記事の要点まとめ
- 口呼吸は舌や唇の力バランスに関わり、歯並びや顎の発育に影響しうると考えられています
- 唇の乾燥や着色汚れなど、家庭で気づきやすいサインを紹介しています
- あいうべ体操や食事姿勢の工夫、歯科相談の目安まで段階的に整理しています
なぜ口呼吸が子どもの歯並びや顎の発育に悪影響を及ぼすのか
歯並びは、歯そのものだけで決まるものではありません。外側からかかる唇や頬の力と、内側から押し返す舌の力。この二つ——つまり内外の力が釣り合う位置に、歯は並んでいくと考えられています。口が開いた状態が長く続くと、この均衡が崩れやすくなります。
舌の位置低下と口周りの筋肉バランスの崩れが生じる仕組み
本来、安静時の舌先は上の前歯の少し後ろにあり、舌全体が上顎に軽く触れています。これが内側から上顎を押し広げる、自然な力になります。ところが口呼吸が習慣になると、空気の通り道を確保しようとして舌が下がり、いわゆる低位舌の状態になりやすいといわれています。
上顎を内側から支える力が弱まる一方で、開いたままの唇や頬の筋肉は緊張しにくくなり、口腔周囲筋のバランスが乱れやすくなります。乳歯から永久歯へ生え変わる学童期は、顎の骨が活発に育つ時期。この時期の筋肉の使い方の癖は、歯列弓の幅や顎の成長方向に少なからず関わるとされています3。指しゃぶりや爪噛みが重なっている場合も、同じように歯へ持続的な力が加わります。
出っ歯・開咬・V字型歯列など代表的な歯並びの乱れ
口呼吸が背景にあるとき、次のような傾向がみられることがあります。
- 上顎前突(出っ歯):唇を閉じる力が弱く、上の前歯が前方へ傾きやすい
- 開咬(かいこう):奥歯を噛んでも前歯が噛み合わず、隙間が残る
- V字型歯列弓:舌の支えが減り、上顎の歯列が横幅の狭いV字状に近づく
V字型歯列弓では歯が並ぶスペースが不足し、叢生(歯の重なり)へつながることもあります。とはいえ、口呼吸があれば必ずこうなるわけではありません。遺伝的な骨格や生え変わりの経過など、複数の要素が絡み合います2。気になった段階で状態を確認しておくことが、選べる対応の幅を広げてくれます。
見逃しやすい子どもの口呼吸サインと全身への波及リスク

「うちの子は鼻で呼吸できているはず」と思っていても、集中しているときや睡眠中だけ口が開いている、というケースは珍しくありません。日々のちょっとした観察が手がかりになります。
唇の乾燥や着色汚れなど日常で見られる口元の特徴
家庭で確認しやすいポイントを挙げてみます。
- 上唇が山型に持ち上がり、下唇と比べて乾いて白っぽく見える
- 前歯の表面に茶色い着色汚れがつきやすい(乾燥で汚れが定着しやすいため)
- 食事中にクチャクチャと音が出る、飲み込むときに口元へ力が入る
- 朝起きたときに喉が乾いている、いびきをかく
- 唇を閉じるよう促すと、あご先に梅干し状のシワが寄る
どれか一つ当てはまれば即問題、というものではありません。ただ複数重なるようなら、口が開きがちな時間が長い可能性を考えてよいでしょう。こうした癖はお子様の努力不足ではなく、鼻の通りにくさなど体の側に理由があることも多い——この点は覚えておきたいところです1。
むし歯・口臭リスクの上昇と睡眠・姿勢への悪影響
唾液には、口の中を洗い流し、細菌の増殖を抑える働きがあります。口が開いた状態が続けば口腔内は乾き、この自浄作用が働きにくくなるため、むし歯や歯肉の炎症、口臭のリスクが高まりやすいと考えられています2。前歯の着色が目立ちやすいのも、理由は同じです。
影響は口の中だけにとどまりません。鼻はフィルターと加湿器の役割を担っており、口から冷たく乾いた空気を直接吸い込むと、喉への負担が増える場合があります。就寝中に気道が狭くなりがちだと眠りが浅くなり、日中の集中力に響くことも。さらに、気道を確保しようと頭が前に出る姿勢が続くと、猫背の傾向につながるとも指摘されています。当院では、呼吸や嚥下といった口腔機能を整えることを、姿勢を含めた体の発育を支える取り組みの一つと位置づけています。
今日から家庭で取り組める口呼吸改善トレーニングと習慣づくりの工夫
本格的な装置を使う前に、生活のなかでできることがあります。特別な道具は、ほとんど要りません。
あいうべ体操や遊びを取り入れたお口の筋肉トレーニング
代表的なのがあいうべ体操。「あー」と大きく口を開け、「いー」と横に引き、「うー」と唇を強く前へ突き出し、最後に「べー」と舌を下方向へ思い切り出す。これで1セットです。声は出さなくてもかまいません。1日30回程度を目安に、朝晩や入浴中など時間を決めて続けると、習慣として根づきやすくなります。
遊びの形にするのも一案です。シャボン玉、吹き戻し(ピロピロ笛)、風車、紙風船などは唇を閉じて息を吐く練習になりますし、ガムを前歯ではなく奥歯で噛み、舌で上顎に押し当てて丸める遊びは舌の使い方の練習になります。当院のインスタグラムでも、ガムを使ったお口の習慣づくりをご紹介しています。
食事時の姿勢と正しい飲み込み方(嚥下)を身につける習慣
トレーニングと同じくらい大切なのが、毎日の食事です。椅子が高すぎて足がぶらついていると、噛む力がうまく入りません。足裏が床か足置きにしっかり着き、背筋が伸びて、テーブルが肘の少し下にくる高さを目安に、環境を整えてみてください。
飲み込み方も見ておきたいポイント。望ましい嚥下では、舌先が上の前歯の裏の少し後ろ(スポット)に触れ、舌全体が上顎に吸い付くように動きます。舌が前歯を押し出す飲み込み方が癖になっていると、前歯へ力がかかり続けます。水を一口含み、上下の歯を軽く合わせたまま舌を上顎につけて飲む——この練習を鏡の前で一緒にやってみると、感覚がつかみやすいでしょう3。
お子様が嫌がらずに継続できる保護者の声かけと工夫
「口が開いてる」と何度も指摘されると、お子様は指摘そのものを嫌がるようになります。閉じているときに「今の閉じ方いいね」と伝えるほうが、ずっと続きやすいものです。
- カレンダーにシールを貼り、達成を目で見えるようにする
- 保護者も一緒にやり、どちらが長く続くか競争にする
- 歯みがきや入浴など、すでにある習慣とセットにする
- できない日があっても責めず、翌日に再開すればよいと伝える
完璧さより、ゆるくても途切れないことのほうが結果的に力になります。 小学1年生前後は、褒められた経験が行動の定着につながりやすい時期。ご家庭の雰囲気づくりそのものが、取り組みを支える土台になります。
自宅ケアだけで改善しない場合に歯科医院へ相談すべき目安と治療法
数か月続けても口が開いたままの時間が長い、いびきが気になる、鼻をよくすする。そんな様子があれば、家庭の工夫だけで抱え込まず、専門的な確認をおすすめします。
鼻づまりやアデノイド肥大が疑われる際の医科歯科連携の判断
そもそも鼻で呼吸しづらい状態であれば、口を閉じる練習だけでは変化が出にくいことがあります。アレルギー性鼻炎、慢性的な鼻閉、扁桃肥大やアデノイド肥大などが背景にあるケースです。
次のような様子が続く場合は、耳鼻いんこう科への相談を検討しましょう。
- 季節を問わず鼻づまりや鼻すすりがある
- 睡眠中のいびきが大きい、呼吸が止まったように見える瞬間がある
- 声がこもる、口を閉じると苦しそうにする
原因が鼻側にある場合、医科での治療と歯科での機能訓練を並行するほうが取り組みやすくなることがあります1。当院は「患者さまと歯科医院、二人三脚の関係でありたい」という考えのもと、必要に応じて他科への受診もご案内しながら進めています。
セファロや口腔内スキャナーによる顎の発育状態の精密検査
見た目の印象だけでは、顎の骨がどの方向へ育っているかまでを判断することは難しいものです。当院では歯科用CT・セファロ(頭部エックス線規格写真)・口腔内スキャナー(iTero)といった設備を用いた事前の精密検査に力を入れています。
セファロでは、上下の顎の前後的な位置関係や成長のバランスを数値として把握できます。口腔内スキャナーは型取りの負担を抑えながら歯列の形を立体データ化でき、画面上で一緒に見ながらご説明できるのも利点です。現状を数字と画像で共有することが、納得したうえで方針を選ぶ出発点になります。
MFT(口腔筋機能療法)や成長期を活用した小児矯正のアプローチ
歯科医院で行うMFT(口腔筋機能療法)は、舌の位置、唇を閉じる力、飲み込み方などを段階的に訓練していく方法です。家庭でのトレーニングを、専門スタッフが評価しながら組み立て直していくイメージに近いといえます。
そのうえで必要と判断されれば、顎の成長を利用する小児矯正(Ⅰ期治療)を検討します。永久歯が生えそろってから行うⅡ期治療とは目的が異なり、Ⅰ期では顎の幅や成長方向を整えることに重点が置かれます。プレオルソのような機能的装置を用いる方法もあり、期間や費用、通院頻度は状態によって幅があります。多くは自由診療となるため、検査結果をもとに見積もりと見通しをご説明したうえでご判断いただく流れです3。なお、装置を使う場合でも口の周りの筋肉の使い方が整わないと後戻りが起こることもあるため、治療後のメンテナンスと機能訓練の継続が欠かせません。
よくあるご質問
Q. 歯並びが整うと口臭は改善しますか?
A. 歯が重なっている部分は歯ブラシが届きにくく、汚れが残りやすい傾向があります。歯列が整うことで清掃しやすくなる面はありますが、口臭の要因は口腔乾燥、歯周組織の状態、食習慣、全身疾患など多岐にわたります。矯正だけで解決するとは限らないため、原因を確認したうえでの対応をおすすめします。
Q. 歯列矯正をすれば口呼吸も改善しますか?
A. 前歯が突出して唇が閉じにくい状態であれば、歯並びが整うことで閉じやすくなる場合があります。ただし鼻づまりや口周りの筋力が背景にあるケースでは、装置だけでは変化が出にくいことも。MFTや耳鼻いんこう科での治療と組み合わせて考えるのが一般的です。
Q. 小学生のお口ぽかんは、どこから手をつければよいでしょうか?
A. まずは鼻が通っているかの確認、次にあいうべ体操などの筋肉トレーニング、そして食事の姿勢と飲み込み方の見直し。この順序が取り組みやすいでしょう。数か月続けても変化が乏しい場合は、一度歯科医院で口腔機能の状態を確認してみてください。
Q. 子どもの歯並びは自然に整うことがありますか?
A. 生え変わりの過程で見た目が変化することはあります。一方で、口呼吸や指しゃぶりなどの習癖が続いている場合は力が加わり続けるため、自然な変化が期待しにくいこともあります。前歯が生え変わる7歳前後は、経過を見るか対応するかを判断しやすい時期とされています。
Q. 市販の口閉じテープを子どもに使ってもよいですか?
A. 商品によって対象年齢が定められており、鼻閉がある状態での使用は呼吸の妨げになる可能性があります。自己判断での使用は控え、鼻の通りやお子様の年齢を確認したうえで、歯科医院や耳鼻いんこう科にご相談ください。
参考文献
1. 厚生労働省「健康づくりサポートネット(疾病・健康に関する情報)」 https://kennet.mhlw.go.jp/information/
2. 厚生労働省「健康づくりサポートネット(口腔・歯の健康)」 https://kennet.mhlw.go.jp/information/teeth
3. 日本小児歯科学会 https://www.jspd.gr.jp/
1988年 有山歯科診療所学園前 勤務
1992年 ちか山歯科医院 開院
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